ニュースの概要
ITmediaが、野村不動産ホールディングスの経理部門におけるDXの取り組みを取り上げた。同社は経理業務の見直しによって、年間およそ9000時間もの作業時間を生み出したという。注目すべきは、その進め方である。最新ツールの導入や自動化を先に考えるのではなく、「まず、その業務をなくせないか」と問うところから出発する。いわば業務の「引き算」だ。作業を速くする前に、そもそも必要かどうかを疑う。この順序が成果の大きさにつながったと報じられている。本稿では、記事の要点を手がかりに、不動産業界の管理部門にとっての意味を考える。
引用元: 「まず、その業務なくせない?」 野村不動産HDが経理DXで「年間9000時間」を生み出した“引き算”の考え方(ITmedia)
分析・見解
自動化より先に「やめる」を問う順序の意味
多くの企業のDXは、「今ある作業を機械にやらせる」ところから始まる。請求書の読み取りを自動化する。仕訳(=取引を帳簿に記録する作業)を自動で起こす。どれも有効だが、落とし穴がある。不要な作業まで丸ごと自動化してしまうことだ。たとえば紙の請求書を自動で読み取れるようにしても、そもそも紙で回す必要がなければ、その仕組み自体が無駄だったということが起こる。
野村不動産HDの事例が示すのは、この順序を逆にした効果である。まず「なくせないか」を問い、次に「減らせないか」「簡単にできないか」と進み、最後に自動化へたどり着く。9000時間という数字は、一つの優れたツールだけでなく、この問いの積み重ねで生まれたと読むのが自然だ。
経理に不要な作業が積もりやすい構造的な理由
経理部門には、過去の事情で始まった作業が残りやすい。監査対応のために作った資料、他部署から頼まれた集計、前任者が始めた確認の手順。目的が薄れても、やめる理由もないので続く。ある作業が必要かどうかを聞くと、担当者は「昔からやっている」としか答えられないことも多い。
不動産グループはこの傾向が強いと考えられる。分譲、賃貸、運営、仲介と事業が分かれ、子会社ごとに帳簿のつけ方や承認の流れが育つ。似た作業が複数の場所で重複しやすい。引き算の余地は、事業が多様な会社ほど大きいはずだ。
削減時間を数字で語るだけでなく質の変化も見る
年間9000時間は、1人あたり年間約1800時間の勤務と仮定すれば、約5人分に相当する。ただし、これを人員削減と読むのは早計だ。経理の価値は、入力の速さではなく、数字から経営への示唆を出せるかにある。浮いた時間を予算管理や資金繰りの分析、事業部との対話に回せたか。ここまで見て、はじめてDXの成果といえる。
他社の動きも参考になる。電子帳簿保存法やインボイス制度への対応で、多くの企業がまず紙の整理に着手した。その機会に、承認の段階や紙の回覧そのものをやめた会社は、システム費用を抑えながら効果を得やすい。ツールを増やすより工程を減らすほうが、安く確実に時間が浮く。
引き算は一度で終わらず仕組みとして続けたい
引き算の難しさは、放置すると再び足し算に戻ることだ。新しい制度や依頼で、作業は自然に増える。新しい作業を入れるときは古い作業を一つ外す。このルールを置けるかが分かれ目になる。経営層が「何をやめたか」を評価に加えることも、定着には効く。
今後は生成AIの普及で、文書の要約や書類の照合が一気に安くなる。そのとき「できるから任せる」と判断すれば、不要な作業が増えるだけだ。AIが使えるようになるほど、「やらない」と決められる経理部門が強くなる。これが、この事例から読み取りたい最大の点である。
ビジネスへの影響
最初の一歩は業務の棚卸しとやめる候補の洗い出し
導入前にやるべきは、業務の一覧づくりだ。月次の作業をすべて書き出し、誰のために、何のために、どのくらいの時間をかけているかを並べる。そのうえで、三つの問いを順に当てる。なくせないか。減らせないか。簡単にできないか。自動化を考えるのは最後でよい。
作業時間の大きい順に上位二十件ほどを見るだけでも、効果は出る。報告書の読み手に聞くと、「実は誰も見ていない」と分かる資料は意外に多い。一度に全部を変えず、まず一つの部署で試し、成果が見えたら広げるのが現実的だ。
不動産会社が最初に見直しやすい三つの領域
不動産会社が最初に見直しやすい領域は三つある。一つ目は、物件ごとや子会社ごとの精算・請求の確認作業。二つ目は承認の段階で、少額の支出まで多段階で承認していないかを点検する。三つ目は管理会計(=社内の経営判断のための集計)の報告資料で、形式が部署ごとに違うと、まとめ直しに時間がかかる。子会社が多いグループでは、共通の様式を決めるだけで時間が浮くこともある。
ただし、やめる判断には、監査や法令の確認が欠かせない。税務や内部統制(=不正やミスを防ぐ社内の仕組み)に必要な記録まで消さないよう、関係部署と相談して進める。
効果の測り方と浮いた時間の使い道を先に決める
削減時間は、導入の前後で比べられるよう、最初に記録しておく。同時に、浮いた時間を何に回すかも決める。決めないと、時間は別の雑務に吸収されてしまう。予算の分析や現場との対話など、経営に近い仕事へ振り向けたい。経営者は削減時間の数字だけでなく、この使い道まで確認したい。半年後に再点検する日を決めておくと、足し算への逆戻りも防げる。
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